目次
1. 「一隅を照らす」モデルオーディション
2. ウクライナから避難してきた二人の少女をアンバサダーに
3. 比叡山延暦寺が祈り続けてきた「平和への願い」
4. 社会的課題を自分ごとに捉える若者たち
5. 比叡山延暦寺を日本文化のプラットフォームに
伝燈LIVE プロジェクトレポート Part.2
10月10日、1200年の歴史を持つ比叡山延暦寺で初となるオンラインイベント『伝燈LIVE』が開催された。Part.2では、『比叡山延暦寺 VEDUTA COLLECTION』に向けて開催したモデルオーディションのことや、世界平和への願いについて焦点をあてます。全7本の記事に渡って、プロジェクトを企画したARTORY代表・佐藤丈亮(じょうすけ)に話を聞いた。(2022年8月時のインタビューに基づく)
1. 「一隅を照らす」モデルオーディション
2. ウクライナから避難してきた二人の少女をアンバサダーに
3. 比叡山延暦寺が祈り続けてきた「平和への願い」
4. 社会的課題を自分ごとに捉える若者たち
5. 比叡山延暦寺を日本文化のプラットフォームに
『比叡山延暦寺 VEDUTA COLLECTION』では、ひとつの試みを行った。ファッションショーに参加するモデルをオーディションで募ったことだ。
「当初は新作中心のコレクションを考えていたんですが、過去の服もすべて出そうという話になっていったので、モデルの人数が必要になってきました。ならばオーディションをやって、より多くの人に賛同をしてもらえる機会を作れたらいいんじゃないかと考えたんです」(佐藤丈亮、以下同)
経験・国籍・ジェンダーを問わずモデルの募集をしたところ、17歳〜50歳まで、北は北海道、南は沖縄まで総勢380人のエントリーがあった。一次審査は「書類選考」と「360度自撮り動画」、二次選考は「スタジオで面接」と「ウォーキング審査」。そして最終選考として特設サイトを開設し、ホームページ上で出演モデルを決める「WEB投票」を行った。
「WEB投票の形をとらせてもらったのは、なるべく多くの人たちの力を借りたかったという部分もあります。それは、参加者だけでなく、彼ら彼女らを応援してくれる人や、共感してくれる人も含めてです。やはりショーやイベントというのは、体験する人たちがいなければ完成しないんですよね。でもその甲斐あって、たくさんの方に出会うことができましたので、よかったなと思います」
オーディション審査では、各々が思い描く未来のVEDUTA(景色)を語ってもらい、参加者ひとりひとりにフォーカスを当てた。これは「金銀財宝ではなく、置かれた場所で社会の一隅を照らしている人たちこそが国宝だ」という最澄の「一隅を照らす」という言葉にインスパイアされたものだ。こうして、ショーに参加する35人のモデルが最終決定した。
およそ1ヶ月に渡った『比叡山延暦寺 VEDUTA COLLECTION』のモデルオーディションで、多くのモデル希望者と出会うことができた。
「みなさん熱い想いを持っていました。特に、年齢制限を50歳までにしたことで、“次世代に日本の文化を伝えていきたい”という、私たちのコンセプトに共鳴してくれた幅広い世代の方々に参加をしていただいたんです。“すごいことやってるね”と言ってもらえることもありましたし、『比叡山延暦寺』でなければ動かないような人たちの心を動かせたことがとても嬉しかった。」
『比叡山延暦寺 VEDUTA COLLECTION』の企画をしている時に、今年の3月にウクライナから名古屋に避難してきた二人の少女の存在を知った。13歳のブラダと、14歳のアンジェリカだ。彼女たちは、母国でモデルになる夢を持っていた。
「たまたまなんですが、2人の受け入れ先になったのが僕の母校でもあるインターナショナルスクールでした。後輩のためというわけではないですが、不思議な縁を感じて。次世代の一隅を明るく照らすことが今回の趣旨でもありましたし、ウクライナ情勢の影響を受けて日本に移ってきた彼女たちを世界平和と伝燈の象徴として、『伝燈LIVE』のアンバサダーに迎え入れることにしたんです」
世界平和は比叡山延暦寺の願いでもあり、1987年に日本の主なる宗教指導者を結集して発足した『比叡山宗教サミット』では今年35周年を迎えた。「平和の祈りの集い」として毎年続けられており、今年の8月4日に行われた式典では、会場にウクライナの国花の「ヒマワリ」が飾られ、仏教、キリスト教、イスラム教などの国内外の宗教者が宗派を超えて、平和と新型コロナウイルス禍の終息を祈った。
「その比叡山延暦寺の平和への想いを形にするため、今回は『伝統ライブコマース』の配信中に、ウクライナ募金を主旨とする『平和の鐘LIVE』を実施することに決めました」
「ピースチャット」を購入することで、平和のメッセージをチャットで送信でき、一定金額に達するごとに、「平和の鐘」が撞かれるというシステムです。さらにメタバース『比叡山バーチャル延暦寺』のプラットフォーム上には、協賛企業がPRを掲載できるピンを立てる開発も行いました。
「僕らの想いに共感していただける企業の方に賛同していただきやすいようにしてみたんです。1,200年の歴史をもつ比叡山延暦寺のバーチャルプラットフォームに、未来に向けて持続可能な社会を作っていくメッセージを残していってもらいたい。たくさんの方に参加していただいて、ともに盛り上げてもらえたら嬉しいです」
比叡山延暦寺を開いた最澄の言葉「一隅を照らす人こそ、国の宝である」をコンセプトに、オーディションでは参加者のバックボーンや思いをひとりひとり丁寧に聞いていった。そんななかで、佐藤は現代の若者世代にこんな印象を感じたという。
「今回はファッションがベースにあったからかもしれないけど、SDGsやダイバーシティの問題に非常に敏感で、そういった社会的課題を自分ごととして捉えているように思いました。もしかしたら僕たちくらいの世代だと 『それぞれの自由だから、良いんじゃない?』くらいの感覚かもしれないけど、その問題を『何かなんとかしなければいけない』とまでしっかり考えている気がしました」
「日本を考えていきたい」という意識は、自分たちよりもこれから社会に出ていくであろう彼らの世代の方が強いのかもしれないと感じるとともに、少しの違和感もあった気がします。
「SNSが発達したからかもしれないけれど、より集団主義が強まっていると感じました。自分の発した意見が非難されれば『こんな世の中は間違っている』『嫌だ』となり、それゆえに自分の意見を受け入れてもらえる『多様性』があるべきだと考える。すこし意地悪な見方をすれば、だからこそみんなの『いいね』を得られやすい、ジェンダーや差別問題をテーマに掲げやすい傾向にあるんじゃないかなとも思ったんです。その結果、『言うことは一人前だけど、いまのままの自分たちでそれが実現できるのか?』という印象も持ちました。死ぬ気で動けるか、死ぬ気で生きることができるか。その覚悟がなければ、自分の手で社会を変えていくところまではいけません」
良くも悪くも、若い世代の価値観はSNSがすべての基準になっているーーーオンラインイベントにこだわる理由もそこにあるんだと思う。
「SNSが価値基準になっているのであれば、それを逆手にとってオンラインを絡めながら『文化創生』のムーブメントを広げていけば、可能性はもっと広がっていくんじゃないかと思います。そこをリードしていくのがいまの僕の役目なのかなと思います」
モデルオーディションに参加したスペイン人の男性から言われた言葉が、強く印象に残っているという。
“君たちがやっていることは、たぶん世界中が見習うプロジェクトになると思うよ。あらゆる世界遺産がこのプロジェクトに注目するはず。だから参加したいんだ”
「彼にそう言われて、すごくしっくりきました。そうか、自分たちが目指しているのは『世界遺産のDX』なんだって。これから先、このパッケージをほかの世界遺産でやってみても面白いんじゃないかなと思いますね」
「はじまりこそファッションショーでしたが、『文化創生』につながるさまざまなコンテンツを準備しました。ほかにも、Z世代のインフルエンサーを起用して、比叡山延暦寺を僧侶と巡るロケ番組をライブ配信したり、比叡山延暦寺をバーチャルマップで再現した『比叡山バーチャル延暦寺』を立ち上げて、ここからライブ配信や記事コンテンツへのアクセスができるようになっています。協賛企業様によるSDGsへの取り組みを紹介できる場にもなっているので、イベントが終わってからも、バーチャルマップのアーカイブは残していくつもりです」
世界遺産の比叡山延暦寺の1200年の歴史上初となるオンラインファッションショーやメタバースも、これは未来に繋いでいくための“はじまり”に過ぎないという。
「比叡山延暦寺を日本の文化を世界中に発信できるプラットフォームにしていきたいんです。先人たちが比叡山延暦寺から全国に仏教を広めてきた歴史に倣い、オンラインを通じて私たちの世代でこの場所から世界中に文化を発信することで、デジタル時代における文化創生の事例となるプロジェクトにしていこうと考えています」
Part.1 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.2 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.3 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.4 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.5 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.6 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.7 伝燈LIVE プロジェクトレポート