目次
1. モデルたちのエネルギーに支えられた「伝燈LIVE」
2. ショーのBGMはVEDUTAのコンセプトにも通ずる「不滅の法灯」
3. 伝統工芸の再解釈に取り組む職人たちが集結
4. 茶会に見立てたライブコマースで重厚感のある番組に
5. 延暦寺と若い世代をつなぐためにインフルエンサーは外せなかった
6. 比叡山延暦寺の先輩、T-BOLAN森友嵐士氏への挨拶
伝燈LIVE プロジェクトレポート Part.3
2022年10月10日、1,200年の歴史を持つ比叡山延暦寺で、初となるオンラインイベント『伝燈LIVE』を開催。ストリート着物ブランド『VEDUTA』オンラインファッションショーを中心に、伝統工芸品のライブコマースや、比叡山延暦寺を巡るライブツアー、平和の鐘LIVEなどさまざまなコンテンツに多くの出演者が参加したが、どのような想いでキャスティングをしていったのか?全7本の記事に渡って、プロジェクトを企画したARTORY代表・佐藤丈亮(じょうすけ)に話を聞いた。(2022年9月時のインタビューに基づく)
1. モデルたちのエネルギーに支えられた「伝燈LIVE」
2. ショーのBGMはVEDUTAのコンセプトにも通ずる「不滅の法灯」
3. 伝統工芸の再解釈に取り組む職人たちが集結
4. 茶会に見立てたライブコマースで重厚感のある番組に
5. 延暦寺と若い世代をつなぐためにインフルエンサーは外せなかった
6. 比叡山延暦寺の先輩、T-BOLAN森友嵐士氏への挨拶
オーディションに参加したモデルへの投票期間は、8月15日から8月21日までの1週間。 最終的に投票総数21,755票、9,163ユーザー(LINE、Facebookの会員登録者)が参加した。
「マーケティング的には、1週間で9,000ユーザー以上を集めたのはすごいことだと思います。応援投票のためにFacebookかLINEログインをしてもらったのですが、これがイベント当日の視聴数にもつながりオンライン視聴者数は25,778ユーザー、193,831 PVを記録しました。広告を打たずにこれだけの数字が得られたのは、完全にモデルオーディションのおかげだと思います」(佐藤丈亮、以下同))
また、二次面接でモデル達との素晴らしい出会いにも恵まれた。
「参加者の中には、投票審査について“日頃からファンが多い人が有利じゃないか”“本質的になにか違うんじゃないか”と言っていた方もいました。その気持ちは分からなくはないけれど、実際にその数字が何に基づくかといえば、その人の努力なんですよね。1日1回の投票ができるシステムで、LINEとFacebookを使えば、1週間でひとり14票を投じることができます。2,000票近くを集めた方が2、3人いましたが、頑張ってる方たちは、毎日TikTokやInstagramの配信で応援を呼びかけていました。最初は恥ずかしがっていた方たちもだんだん応援をもらえるようになり、審査が終わる頃には“すごくいい経験をさせてもらいました”と感謝のメッセージをくれたりもしました。結果的に、プラスに働いている印象の方がほとんどだったと思います」
WEB投票は、ファンの声や自分の存在意義を再認識しブレイクスルーの機会を得た若い参加者も多かったようだ。
「最終選考に参加してくれた34人のうち、32人がショーモデルに合格しました。僕としては、WEB審査でこのイベントに対してどれだけ真剣に向き合ってくれるかを見たい気持ちがあったのですが、みんなそれにちゃんと応えてくれたんです。そのこともあって、実は渡邉さんが追加の衣装を制作したんですよ。僕と同じく、やっぱりがんばった方たちに機会を与えてあげたいという思いを抱いたんですよね。我々としては、それくらいモデルたちのエネルギーに支えてもらったと感じていますし、もしこの先も伝燈LIVEをやることになったら、きっと同じ形式をとるだろうなと思います」
モデルオーディションが終わっても進めなければならないことが山ほどあった。
「ショーの音楽を担当してくれた菅原(一樹)さんが初めて延暦寺に打ち合わせにみえたのは8月頃でした。菅原さんは、僕のソロアーティストプロジェクト・JOSUKEの編曲を担当してくれている方で、音マニア(笑)。フィールドレコーダーを手に、鐘の音や延暦寺まわりの録音をいろいろしていましたね」
ファッションショーのBGMは、「伝燈LIVE」に相応しいものに仕上がった。
「オーセンティックな雰囲気で、あまり派手にはしたくなかった。そこで延暦寺で実際に録音した音のサンプリングで作ることにしたんです。鐘の音で始まって、いろいろなビートが流れて行くけど、裏にはずっと鐘の音が鳴り続けているという。そこには、時代の移ろいとともに新しいものが取り入れられていくけど、常に変わらないものがあり続けるという、伝燈LIVEそのもののテーマが表現されています。延暦寺の不滅の法灯は、常に新しい油を注いできたからこそ、1200年も燃え続けてきました。伝統を守るためには、変化を恐れてはいけないんです。でも、古くから守ってきたものをリスペクトしないことも違う。その両面を持ちながら、いかに昇華させていくかが、文化の継承なんじゃないかなって。それは、着物という伝統的なものを現代のカルチャーやライフスタイルに適合したものに変えていこうとするVEDUTAの思いとまったく同じです」
引き続き、9月の時点でライブコマース出演者の確保に難航していた。
「焦りましたね(笑)。緊急ミーティングで、VEDUTAとも協力関係にある伝統工芸品を取り扱うオンラインサイト・BECOSと、豊川稲荷のYORU MO-DE(ヨルモウデ)で共催に入っている株式会社モテまちに協力を依頼して、急ピッチで進めることになったんです」
しかし、ひとつの懸念が生まれた。
「伝統工芸品のライブコマースとはいえ、延暦寺で急に通販番組みたいなことをやるのもおかしいなと思ったんです。そこで、茶会の形にして、野点で茶の作法を学びながら、それぞれが持ち寄ったアイテムを紹介する企画にしたらどうかと思いつきました。それがライブコマース番組になっていて、その場で買えるのであれば自然ですし、あくまで番組としての企画が先に立つようなパッケージにしようと思いました」
こうして、急遽、伝統工芸品の職人だけでなく、茶を点ててくれる人を探すことに。
「当初は、つながりのあった、歴史あるお茶屋さんに相談したんですが、伝統を壊すことをすごくリスクに考えていると感じました。最終的には、再びYORU MO-DE(ヨルモウデ)の繋がりで、宮城の老舗茶舗『茶匠 矢部園』の矢部亨さんにお願いすることができました」
矢部氏は、自ら厳選した煎茶、玄米茶、玉露などを土作りから茶摘み、仕上げまで全ての工程で丹念に育むなど、信念をもってお茶に取り組む匠。日本茶の文化を広める活動も積極的に行なっており、JR東日本のTRAIN SUITE 四季島に煎茶の淹れ方をレクチャーしたり、石川県の高級旅館「加賀屋」でも、矢部氏がブレンドした煎茶が使われている。
「海外の共通認識では、ジャパニーズティーといえば、抹茶らしいんです。でも、日本には抹茶だけでなく、煎茶や玄米茶、玉露と色々あります。矢部さんは、庶民的な煎茶の再解釈に取り組んでいて、5,000円の煎茶をカクテルグラスに注いで提供したりもしている。煎茶はとても安価なので、農家もなかなか手をかけて作れないんですが、実は煎茶は深遠なものなんですよね。そこを、リブランディングして本当の価値を広めたいと考えているそうです。このような志と実績のある方に参加してもらえて、本当によかったと思います」
変化を恐れることなく伝統を紡いでいくーー。それぞれに職人たちが取り組んできた思いが、こうして伝燈LIVEへと集結。
伝燈LIVEでは、ファッションショーやライブコマースの他に「ライブツアー」も実施。日本の歴史や文化を学ぶきっかけになるよう、Z世代のインフルエンサーとともに、比叡山延暦寺東塔をめぐるロケ番組のコンテンツだが、ここの出演者探しも難航した。
「もともとは、海外への発信も意識して、日本が好きなとあるオランダ人のユーチューバーをお招きしようと思っていたんですが、都合が合わなくてどうしようか悩んでいたんです。そんなとき、9月末にARTORYが出展した大阪の展示会で出会いがありました。伝燈LIVEの一週間前でしたね」
出演を快諾してくれたのは、アヤノダガネ氏。TikTokフォロワー数が110万人を超えるインフルエンサーだが、普段は名古屋の映像制作会社で会社員として働いている。
「展示会に、たまたま彼女がきたんですよ。しかも、勤め先の会社の場所がARTORYからすぐ近くだった(笑)。本当に奇跡的でしたね。今回は延暦寺の歴史や文化を若い世代に伝えることも大切だと思ってたので、ここは外せなかったんです。とはいえ、インフルエンサーはプロのタレントではないからどれくらい話せるかわからないし、有名なユーチューバーでは延暦寺の空気感と合わなくなりそうだったから、ここの塩梅がすごく難しかった。そこに、本当にちょうどいい人が現れてくれたんです」
すべてのキャスティングが整いましたが、ひとつ忘れてはいけない大切なことがあった。
「2013年からT-BOLANの森友嵐士さんが比叡山延暦寺親善大使を務められているんです。 “筋を通す”ではないですが、この場所で新しいことをやるので挨拶はしておかなければいけないだろうと、森友さんが延暦寺でライブをされるタイミングでお伺いしました。長年、比叡山延暦寺境内で奉納LIVE『祈りの集い』をやってこられたT-BOLANさんは、我々にとって大先輩。いわば、延暦寺の新しい伝統を作られきていることでもあるわけです。そこに新たな変化としてやってきた我々を受け入れていただけるか不安もありましたが、森友さんは若い世代が発信してくれることをとても喜んでくれました。“延暦寺ファミリー”の一員として認めていただけてホッとしましたね」
たくさんの人々の想いがつながり、いよいよ伝燈LIVEは本番直前へと迫るーー
Part.1 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.2 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.3 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.4 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.5 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.6 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.7 伝燈LIVE プロジェクトレポート