目次
1. 文化創生のプラットフォーム「比叡山バーチャル延暦寺」
2. メタバース空間を伝燈ライブのプラットフォームに
3. プロジェクションマッピングで比叡山延暦寺を彩る
4. 3000人の同時接続に対応したサーバー設計
5. 伝統LIVEの成功がARTORYと延暦寺の縁を深めた
伝燈LIVE プロジェクトレポート Part.4
2022年10月10日、1,200年の歴史を持つ比叡山延暦寺で、初となるオンラインイベント『伝燈LIVE』が開催された。世界遺産からの初めてのオンラインイベント開催にあたって、ARTORYはどのようなクリエイティブとテクノロジーを注いだのだろうか。全7本の記事に渡って、プロジェクトを企画したARTORY代表・佐藤丈亮(じょうすけ)に話を聞いた。(2022年11月時のインタビューに基づく)
1. 文化創生のプラットフォーム「比叡山バーチャル延暦寺」
2. メタバース空間を伝燈ライブのプラットフォームに
3. プロジェクションマッピングで比叡山延暦寺を彩る
4. 3000人の同時接続に対応したサーバー設計
5. 伝統LIVEの成功がARTORYと延暦寺の縁を深めた
オンラインイベントのホーム画面としてARTORYが独自開発するメタバースプラットフォームを採用し、「比叡山バーチャル延暦寺」をイベントに先駆けた10月1日に公開した。
「比叡山バーチャル延暦寺」は、英語にも対応し、パソコンやタブレット、スマートフォンを使って、世界中のどこからでも、誰にでも参加が可能だ。自分のアバターを選んで参加すると、デジタル上の境内を自由に散策することはもちろん、他のユーザーとチャットをしたり、各スポットに配置されたコンテンツを体験ができるようになっている。
「イベント当日に開催された3つのライブ配信には、このバーチャル延暦寺上からアクセスができるようにしました。つまり、このメタバース空間をオンラインイベントのプラットフォームとして活用しようという試みです。ほかにも、1200年の歴史を紡いできた比叡山延暦寺の“一隅を照らす“のコンセプトをしっかり意識して、協賛企業のSDGsへの取り組みを紹介するコンテンツを掲出していたり、1回50円で“平和の鐘”を鳴らすことができる機能なども採り入れています」(佐藤丈亮、以下同)
平和の鐘は『ゆく年くる年』(NHK)でも鳴らされている、比叡山延暦寺の代表的な施設だ。
「現地でNEUMANN u87のコンデンサーマイクを2本立てて、ステレオ録音した鐘の音を使用しています。僕も仕事の合間にたまに鳴らしているんですが、癒されますよ(笑)。今回開催した『伝燈LIVE』のアーカイブもすべてこのバーチャル延暦寺に残していきますし、これからも日本の文化歴史を発信するためのコンテンツの充実を図るため、アップデートを継続していけたらいいなと思っています」
ARTORYが伝燈LIVEに導入したもうひとつのテクノロジーが、プロジェクションマッピングだ。ファッションショーの本番に先駆けて、記念式典の点灯式での発表に向けて準備を進めていた。
「点灯式でプロジェクションマッピングの映像を投影するのは2m20cmの着物でした。渡邉さんとも議論を重ねながら、最終的には遮光カーテンの生地を用いてVEDUTAの服を手掛ける和裁師さんに特注で制作してもらいました」
「散るこそ花と 吹く小夜嵐(さよあらし)」。映像の冒頭に出てくる印象的な文字は、三島由紀夫の辞世の句からとったものだ。
「憂国ですよね。国を憂いて、これから日本を良くしてくれる若者たちが現れてくるだろうと。VEDUTAの着物にも、これをコンセプトにしている作品があるのですが、この伝燈LIVEのテーマにも通じるメッセージです。さらに日本文化の表現として俵屋宗達の風神雷神へと続き、“一隅を照らす”のコンセプトにあわせて、VEDUTAコレクションとともに燈が灯っていく作品に仕上げました」
背景に流れる音楽も、佐藤が作曲した。
「ちょうといい感じの音楽がなかったので、作った方が早いなと。三味線の音や、延暦寺で録音した鐘の音をサンプリングして、ガツンと低音がくるビートに乗せています。この映像は、9月19日の記念式典で公開する予定だったのですが、記録的な台風で式典自体の開催を断念することになり、お披露目できなかったのが残念でしたね」
プロジェクションマッピングは点灯式だけでなく、ファッションショーの演出にも採用した。
「全体としては仏教における“五色”をイメージしています。如来の精神や智慧を青・黄・赤・白・黒の5つの色で表したもので、それぞれお釈迦様の髪の色、身体、血、歯、袈裟を意味します。それに加えて、視聴者が配信アプリのインタラクティブボタンを押すことで、池の映像に蓮の花を浮かべたり、モデルを明るく照らすようなプランを用意して本番に臨みました」
ファッションショーやライブコマースを配信するアプリにも、これまでARTORYが培ってきたテクノロジーとクリエイティブがふんだんに織り込まれている。
「番組ごとにいろいろな仕掛けを用意しました。ライブツアーには、サーベイ(アンケート)機能を使ったクイズ企画を準備したり、伝統ライブコマースやファッションショーでは、そこに登場している商品の詳細にリアルタイムでアクセスできて、さらにそのまま購入ができる仕様になっています。また、番組配信中に、ピースチャットで募金を送れるほか、英語と日本語に切り替えられる翻訳機能も導入しました」
佐藤が、もっとも気を配ったのはサーバーの問題だった。
「どれだけ個々のクオリティにこだわっても、サーバーが落ちて見られなくなってしまっては台無しです。なので、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)を用いてサーバーを分散化させ、2,000〜3,000人の同時接続を想定して設計を行いました。ライブ配信動画は高画質になるほど通信量が増えるので、今回は720pの無料解放と、1080pの有料チケット対応の2種類を用意するプランを立てていたのですが、スケジュール的にデバッグが追いつかず、当日は技術的にできない部分も生じてしまったのは、今後への反省点になりました」
また、ライブ配信についても、これまでARTORYが行ってきた方法を見直して、改良を重ねることにした。
「これまではAWS (アマゾンウェブサービス)の機能を使用していたので、遅延が20秒ほどあったんですよね。仮に何かのボタンを押しても反映されるのが10秒、20秒かかっていたら、インタラクティブな体験にならないなと思って、思い切って切り替えることにしたんです。僕らの理想に合ったサービスがないかと探して辿り着いたのがドルビーでした。もともとは音響メーカーですが、ライブ配信事業にも力を入れているらしく、ドルビーのAPIサービスを使うことで1秒遅延にまですることができたのです。これにより、よりインタラクティブな体験を提供することが可能になりました」
このように当日に向けて入念な準備を重ねたが、プランの中にはやりきれなかったものもあった。しかし、伝燈LIVEは上々の評判を得て無事、成功に終わることができた。イベント終了後には、延暦寺が発行する教化紙『比叡山時報』でARTORYの名前とともにファッションショーの成功が報じられた。
「延暦寺は伝燈LIVEのほかにも定期的にイベントを行なっているので、その告知もバーチャル延暦寺に掲載していきたいですし、メタバース空間で国宝・根本中堂などの寺院や建物に入室できるようにさらなる開発を考えているところです。今後も、バーチャル延暦寺をウェブ上における延暦寺のホームとして使えるようにしていきたいです」
Part.1 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.2 伝燈LIVE プロジェクトレポート
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