目次
1. 標高848mの比叡山で天気予報はあてにならない
2. 配信当日に次々と襲い掛かる想定外のトラブル
3. 「フルコース」から必要なもの以外を切り捨てる作業
4. 同時接続2万5千人超えも「失敗を買った」と思う理由
5. チャレンジをする人間がいることを伝えることができた
伝燈LIVE プロジェクトレポート Part.6
10月10日、1,200年の歴史を持つ比叡山延暦寺で、初となるオンラインイベント『伝燈LIVE』が開催された。世界遺産からの初めてのオンラインイベント開催にあたって、ARTORYはどのようなクリエイティブとテクノロジーを注いだのだろうか?全7本の記事に渡って、プロジェクトを企画したARTORY代表・佐藤丈亮(じょうすけ)に話を聞いた。(2022年11月時のインタビューに基づく)
1. 標高848mの比叡山で天気予報はあてにならない
2. 配信当日に次々と襲い掛かる想定外のトラブル
3. 「フルコース」から必要なもの以外を切り捨てる作業
4. 同時接続2万5千人超えも「失敗を買った」と思う理由
5. チャレンジをする人間がいることを伝えることができた
『伝燈LIVE』の開催は、10月10日。ARTORYのスタッフは、設営やリハーサルなどの最終準備のため、8日から比叡山延暦寺に入山していた。
プロデューサーの佐藤に、無駄な時間は一切なかった。照明は完成していたので、初日にファッションショーのデモンストレーションを行い、本番のカメラの動きを確認。翌9日にはモデルたちを入れたリハーサルで、ウォーキングのディレクション。10日の本番当日には、ライブコマースに出演する伝統工芸の方たちや、ライブツアーに出演するインフルエンサーのアヤノダガネ氏と最終打ち合わせがあった。
しかし、半年間以上もの準備をととのえて挑んだ『伝燈LIVE』に、ここで大きな壁が立ち塞いだ。山の変わりやすい天気が、イベント開催に大きな影響を与えていったのである。
「8日は晴れましたが、2日目はずっと雨。本番当日も、午後から雨が降りだして、本番直前になってようやく止んできたんです。予報では晴れでしたが、標高848mでは、天気予報なんてあてにならないんですね(笑)」(佐藤丈亮、以下同))
「ショーのメインステージは屋外に設置していたので、前日のリハーサルでは回廊部分でしかリハーサルを行えませんでした。ライブコマースも、出演者のみなさんが現地にいらっしゃったときには雨が降っていたので、ぶっつけ本番に近い形で行うことになってしまい、そのことでスタッフのオペレーションも慌ただしくなってしまったんです」
また、延暦寺の主要施設を巡るライブツアーにも、トラブルがあった。
「今回は、配信中継を有線と無線の組み合わせで行ったのですが、実証実験が甘く、根本中堂の中で電波が通らなかったんです。番組の内容自体はとても良かったのですが、巡る箇所を一部削って対応せざるを得なくなってしまいました。この結果を踏まえても、放送用は有線でなければいけないという結論に達しましたね」
こうして生じた遅れは、そのまま次のライブコマースへと引きずられていった。
「技術的に想定していたことで、いくつかできないことがありました。ライブコマースも番組としては非常によい出来だったので、悔しいですね。スタッフも想定外の事態に冷静さを欠いていたので、とにかくイベントを成立させるために、苦渋の判断を次々に迫られました。次から次へと、脱ぎ捨ていくような感覚でしたね」
それだけ厳しい環境下にありながらも、予定していた企画で中止になったものはひとつもなかった。
「大変ではあったけど、すべて行うことができました。ただ、スケジュールがどんどんズレていってしまったのは反省点です。ライブツアー、ライブコマース、ファッションショーの3つのチャンネルを別々に進行していたんですが、時間がかぶってスタッフが分散してしまったんです。もともとは“延暦寺でファッションショーを開催する”ということではじまっている企画なだけに、ショーだけは絶対に崩せないと思いました。ライブコマースの配信が安定したところで、ライブコマースのセカンドカメラやオフショットのために準備していたカメラマンを配置替えして、全力でファッションショーに振り切りました。他にも、雨でスピーカーが一台使えなくなっていたので、モノラルに切り替えるように指示をしたりと、その場その場で決断を下していかなければいけない状況がとても多かったですね」
プロデューサーとして、刹那的な状況での取捨選択を次々に迫られたが、判断基準は「ユーザー」にあったという。
「オンラインイベントは、ユーザーありきなので配信を止めるわけにはいきません。自分の出したいフルコースにこだわってしまうと、遅れがどんどん大きくなっていってしまうので、メニューを減らしてでも提供していかなければいけないと考えました。例えば、あともう10分待たせることができれば、状況は変わるかもしれないけど、とにかく進行が第一優先でした」
来賓として当日現地を訪れていた人たちからは、「その状況を楽しんでいるように見えた」と言われた。
「まったくそんなことないんですけどね(笑)。ただ、100%思ったような演出はできなかったけど、事前に渡邉さんと一緒にやりたいと話し合っていたことはできたと思います。ショーに参加してくれたモデルたちも、ライブコマースの演者さんもみんな喜んでくれましたし、現地で見ていた関係者たちからも『すごいことをやり遂げたね』と言ってもらえました」
イベントのオンライン視聴数は25,778ユーザー、193,831 PVとなり、数字的には十分と思える部分もありますが、「失敗」したと話す。
「イベントが終わってホテルに向かう車中で『今回は“失敗を買った”という意味で、会社としてすごくよかったと思う』って渡邉さんに言ったら、感心されたんですよね。イベントとしてはそこまで悪いものではなかったと思いますが、会社として半年の時間を費やし、相当な費用もかけているので、失敗と言ってもいいと僕は思っています。でも、もし次に同じようなイベントをやるときに、もっとうまくやれるのであれば、それはより価値のある成功になる。この先のアートリーを考えれば、どこかのタイミングで自分たちの未熟さを思い知ることは必要だったと思うんです」
「失敗は、人を成長させる機会」とも話す。
「『伝燈LIVE』は、ARTORYのすべてではなく、会社においては一要素、一つの歴史でしかありません。もし、これが完璧に成功していたとしたら、調子乗ってしまうかもしれないし、もっと大事な場面で大きな失敗をする可能性もあります。現時点で、クリスチャン・ディオールやルイ・ヴィトンのショーには勝てないけど、こういった経験を踏まえていけば、もしかしたらそのうち肩を並べる日がくるかもしれないし、それだけの企画ができるようになる可能性があるわけですからね」
失敗を失敗として認めること。これもまたこの先、アートリーが成長していくうえで必要なことだった。
「イベントの大元である『文化創生』と『燈を伝えていく』という大きなテーマに関しては、しっかりとやりきれたと思います。ショーに参加してくれたモデルたちはいまでもシェアをしてくれていますし、俳優の窪塚洋介さんはInstagramのストーリーに投稿してくれました。延暦寺側からもとても評価していただけましたし、こうやって爪痕を残せたことは、言うなれば“燈が伝わった”ということです。まずは、狼煙をあげて、こうやってチャレンジをする人間がいるということを知らしめられたことに、価値があったんじゃないかと思います」
Part.1 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.2 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.3 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.4 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.5 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.6 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.7 伝燈LIVE プロジェクトレポート