目次
1. 設営のコンセプトは比叡山延暦寺の格式を強調すること
2. 日本の寺でメゾンクラスのファッションショーを
3. ARTORYのクリエイティブのためにプロジェクターを新規導入
4. ファッションショーの音楽とマッピングはライブで実践
5. 有線と無線のハイブリッドでロケ番組に対応
6. 会場設営は厳しい条件のなかで進められていった
伝燈LIVE プロジェクトレポート Part.5
2022年10月10日、1,200年の歴史を持つ比叡山延暦寺で、初となるオンラインイベント『伝燈LIVE』が開催された。世界遺産からの初めてのオンラインイベント開催にあたって、ARTORYはどのようなクリエイティブとテクノロジーを注いだのだろうか。全7本の記事に渡って、プロジェクトを企画したARTORY代表・佐藤丈亮(じょうすけ)に話を聞いた。(2022年11月時のインタビューに基づく)
1. 設営のコンセプトは比叡山延暦寺の格式を強調すること
2. 日本の寺でメゾンクラスのファッションショーを
3. ARTORYのクリエイティブのためにプロジェクターを新規導入
4. ファッションショーの音楽とマッピングはライブで実践
5. 有線と無線のハイブリッドでロケ番組に対応
6. 会場設営は厳しい条件のなかで進められていった
オンラインイベントとはいえ、配信元となる会場でやることは変わない。設営の準備も重要な仕事だ。伝統ライブコマースが行ったのは阿弥陀堂の横に建つ法華総持院東塔で、テーマは茶室。
「今後もこのパッケージを使えるように、たくさんの案を考えました。Pinterestをめくりまくってザッピングし、参考になったものはたくさんありましたが、最終的に黒い畳を15枚敷いたシンプルな造りになりました。その横には矢部さんが茶を点てるための作業台を設置しています」(佐藤丈亮、以下同))
ファッションショーのメインステージとなる阿弥陀堂前には、アートリーが所有するインテリステージを設営し、周囲にテープライトを貼り付けた。
「ショーに関しては、TGCのようなエンタメ性の強いジャパニーズファッションショーではなくアート性を追求しました。なので、ライティングは落ち着いたものにしたかったんです。まずは阿弥陀堂に地面から2台のパーライトと、遠目から2台のブライトライト、さらにサイドから2台の照明を当てて赤く染めました。そのイメージに合わせて、ライブコマース会場である東塔も2台の赤いステージ照明を当てています。ただし、人物や衣服まで赤くなってしまうのは避けたかったので、ステージ正面と、回廊の始まりと終わりには白い照明を設置して、赤い照明を当てる角度も細かく調整しています」
回廊の床には舞台用ではなく撮影用のライトを28基。灯籠のようなイメージで造作して、間接照明のような柔らかさを演出した。
「現場にいる人たちが見て楽しんでもらえるような工夫もしていますが、あくまでもメインはライブ配信のための照明です。ライブコマースの会場も正面から大きめの白い照明を当てていますが、雰囲気を出すためにやや落ち着いたトーンに仕上げました。あまり明るくしすぎてしまうと、ショーの雰囲気にそぐわなくなってしまうので、そこは意識しましたね」
ファッションショーの構成はDIORの2022A/Wコレクションを参考にした。
「メゾンのファッションショーを目指しました。ヨーロッパには雰囲気のある古い建造物でショーが行われることがよくあるのですが、寺も日本の伝統的な歴史のある場所です。VEDUTA COLLECTIONの“景色を集める”という意味に合致することはもちろんですが、1200年にもわかって日本に文化を発信し続けてきた場所として、オーセンティックなリスペクトを込めています。ショープロデューサーの視点としては、日本の寺でもメゾンクラスのショーができることを証明したいという思いがありました」
配信するファッションショーの映像には、シネマクオリティにこだわった機材を揃え、カメラワークも入念に研究を重ねた。
「撮影用カメラはCanon EOS C70を4台と、EOS C300を1台の計5台を用意して、モデルが回廊を歩いてステージに向かってくるまでの流れを、細やかな配置で狙いました」
伝燈LIVEに向けて、富士フィルム社の業務用プロジェクター「Z8000」を用意した。
「東京ビッグサイトで展示会に出展したとき、富士フィルムのデジタルサイネージ部の部長さんと出会ったんです。富士フィルムはこれまでも他社にプロジェクター用レンズは供給していましたが、プロジェクターとしてはエプソンやPanasonicに比べると後発です。ですが、それゆえに性能が尖っていて、一般的なプロジェクターと比べると照射レンズの可動域が大きいんですよね。対角上に映像を照射できるので、今回のステージ構成にピッタリだったので2台購入することにしました」
今回の「伝燈LIVE」にかかった機材費の1/3近くはこのプロジェクターの購入だった。
「結局、プロジェクションマッピングの何が大変かというと、プロジェクターの価格が高いことなんですよ。クリエイティブなことはやれるけど、導入のハードルが高いんです。さらに、プロジェクターを持っていても、作品をテストするためには大きなスタジオも必要になってきます。私たちは自社スタジオを所有しているので、今後のARTORYのクリエイティブのためにも購入を決断ました」
プロジェクターの設置場所は高さ4mのローリングタワーが2台。足場部分を天井に見立てて、下向きにプロジェクターを取り付けた。
「そこからステージに向かって照射すると10mぐらいのマッピングができます。Z8000には、もうひとつ良い点があって、超単焦点なので至近距離にも映像を打ち込めるんですよ。点灯式で2m20㎝の着物にマッピングするのときも、1m80cmくらい離せばいいので、扱いやすいんです。ARTORYとしても建造物を照らすような大きなプロジェクションマッピングというより、作品としてのマッピングが多くなっていくと思うので、それを導入したという部分もありました」
ショー当日のプロジェクションマッピングは、モデルの動きに合わせて行う必要があったが、事前にプログラミングをしたわけではない。
「プロのモデルではないので、時間通り正確に動けないことはわかっていました。だから音楽は菅原さんにその場で展開してもらったし、プロジェクションマッピングはリアルタイムで僕が映像を切り替えて対応していく準備をしていました。つまりライブですよね。そこに視聴者からのインタラクティブが加わっていくんですが、そこついては企業秘密です(笑)。ただ、クラウドに連携した動画と組み合わせて、ユーザーのインタラクティブもちゃんと1秒遅延のほぼリアルタイムでプロジェクションマッピングに投影されるように仕組みをしっかりと整えました」
オンライン配信のためにはインターネット接続も不可欠だ。阿弥陀堂の本部が最終地点になっていたので、ファッションショーの配信は問題ないが、ロケ番組のライブツアーはそうはいかない。本部から300m先の国宝根本中堂から映像を届ける必要があった。
「以前、豊川稲荷のYORU MO-DE(ヨルモウデ)でライブツアーをやったときに、何100mものケーブルを捌くのがむちゃくちゃ大変だったんです。なので、今回は有線と組み合わせながら無線をリレー中継して映像をつないでいくことにしました。結果的には、もっとやり方があったんじゃないかと反省点もありますが、有線と無線のハイブリッドという方法にチャレンジできたことはよかったと思います。今後もブラッシュアップを重ねていきたいですね」
「境内の閉まる16時30分以降じゃないと設営を始められないんですよ。だけどゲートが閉まるのが23時で、そこまで降りていくのに30分近くかかります。そうなると、機材を準備してテストをして片付けるという一連の作業が、実質1日3時間くらいしかできないわけです。機材も置きっぱなしにできず毎回ゼロイチで設営をしていたので、何度も通って少しずつ進めていく必要がありました。標高848mだから天候にも左右されますし、正直、条件は激烈に難しかったと思いますね(笑)」
決して恵まれた環境下ではなかったが、限られた条件の中で無事にイベント開催へと至れたのはARTORYの精神と経験があったからだという。
「どんなに無謀に思えることでも、実現するためにはどんな方法があるのか。課題に対してどのようにソリューション(解決)を導いていくかを私たちは常に考えてきました。ARTORYにはそれに至るための企画力と技術力と実践力がある。伝燈LIVEは私たちにとっても、そのことを改めて実感できる機会になったのではないかと思います」
Part.1 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.2 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.3 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.4 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.5 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.6 伝燈LIVE プロジェクトレポート
Part.7 伝燈LIVE プロジェクトレポート