仕事に感情を持ち込むべきではない。組織を管理する立場ほど、そう考えることがあるかもしれません。しかし、顧客から強い不満を伝えられたとき、チーム内で意見が衝突したとき、プロジェクトに遅れが生じたとき、判断するのは感情を持った人間です。仕事から感情を完全に切り離すことはできません。
そこで注目されているのが、EQです。では、感情を管理するとは、押し殺すことでしょうか。それとも、うまく表現することでしょうか。今回のアートリーアカデミアでは、EQの基本から組織での活用をたどりながら、感情と思考の「凝り」、感情をほぐすための「ストレッチ」、さらに遊び心を使った感情の運用まで議論が広がりました。
DEFINITION
EQとは?感情を行動につなげる3つの力
EQは、エモーショナル・クオシエントの略称です。番組では、エモーショナルインテリジェンスを、自分や他者の感情を理解し、適切に管理することで、人間関係やリーダーシップを強化する能力と説明しています。その中心となるのが「自己認識」「自己管理」「共感力」の3つです。
自己認識とは、自分がいま何を感じているのかを客観的に捉え、強みや弱みも含めて自分の状態を知ることです。自己管理は、怒りや焦り、衝動、ストレスに気づいたうえで、状況に合った行動を選ぶ力。共感力は、相手の感情や視点を読み取り、良好な関係を築く力です。
感情が豊かな人や、いつも穏やかな人だけを指すものではありません。怒りや不安が生まれたとき、それに気づき、すぐ反応する前に行動を選び直せるか。さらに、相手がどう受け取るかまで考えられるか。EQは、感情の大きさよりも扱い方に関わる能力です。
FRAMEWORK
IQが高いだけでは、チームは動かない
知能を示す指標として、よく知られているのがIQです。しかし、仕事で必要になる力を一つの指数だけで捉えることはできません。
番組では、IQに加えて4つの指標が紹介されました。逆境へどう対処するかを見るAQ、他者との関わり方を見るSQ、異なる文化や価値観への適応力を見るCQ、そして感情を理解して対応する力を見るEQです。
難しい問題を解く知識があっても、意見がぶつかったときに相手の感情を無視すれば、チームの力は発揮できません。反対に、相手へ配慮するだけでも、大きな判断を下すことはできません。それぞれの能力は優劣ではなく、仕事の場面に応じて組み合わさります。
番組では、大手弁護士法人の関係者から「弁護士もIQよりEQの時代」と聞いたエピソードも紹介されました。大きな仕事ほど一人では完結せず、専門知識だけでなく、チームで動く力が問われるという話です。
BACKGROUND
なぜ今、組織でEQが注目されているのか
番組では、EQが注目される背景として、VUCA時代、人的資本の活用、メンタルヘルスへの対応、リーダーシップの変化という4点が挙げられました。
変化が速く、正解が一つに定まらない環境では、知識があるだけでは判断できない場面が増えます。働く人の価値観も多様になり、同じ言葉や制度を全員が同じように受け取るとは限りません。リーダーには、相手の状態を読みながら、対話と判断を続ける力が必要になります。
一方で、周囲の感情を気にするほど、自分まで引っ張られてしまうことがあります。番組でも「負の方に引っ張られる」という実感が語られました。共感すれば自動的に組織がよくなるわけではありません。相手を理解しながら、自分の状態も保つ。その両方を扱う点にEQの難しさがあります。
DISCUSSION
感情が見えない人は、EQが低いのか
会議や研修で反応が薄い人を見ると、話が伝わっていないように感じることがあります。ところが、あとから詳しい感想が返ってくることもあります。感情がないのではなく、外へ表現することが得意ではないだけかもしれません。
番組では、感情を表現できる人はEQも高いのか、内面では強く感じていても外に出せない人をどう捉えるかという議論が交わされました。
ここで出てきたのが「感情体温」という言葉です。リーダー自身の熱量が高いと、相手の小さな変化を変化として感じ取れないことがあります。部下の反応が足りないと決めつける前に、自分の感知する基準が高くなりすぎていないかを見る必要もあります。
EQは、自分の感情を表現する能力だけではありません。相手の表現方法や温度差を読み、その人に合った関わり方を選ぶところまで含めて考える必要があります。
APPLICATION
EQが問われる5つのビジネスシーン
EQが力を発揮する場面として、番組では顧客対応、チームマネジメント、プロジェクト管理、交渉、危機管理の5つが紹介されました。
顧客対応では、不満の言葉だけでなく、相手が何に失望しているのかを読み取る必要があります。チームマネジメントでは、意見の衝突を人間関係の対立へ広げず、対話を続けられる状態をつくります。
プロジェクトに問題や遅れが生じたときには、焦りに引っ張られず、必要な対応を選ばなければなりません。交渉では、条件だけでなく相手の警戒や期待を捉えることが、双方にとって納得できる合意につながります。危機管理では、突発的な問題に反応する前に状況を評価し、冷静に動く力が問われます。
怒りに任せたメールを、そのまま送ってしまう。これは感情があることではなく、感情に行動を決められた状態です。番組では、自分と感情の間に一つの空間を空けることが大切だと語られました。
METAPHOR
感情と思考の「凝り」をどうほぐすか
感情に動かされているとき、分かっていても冷静に考えられないことがあります。番組では、この状態を筋肉の凝りにたとえました。
ストレスや不安によって感情と思考が絡まり、固まってしまう。筋肉が凝ったままでは、必要な瞬間にうまく力を出せないように、感情と思考が絡まったままでは、危機に直面しても柔軟に判断できません。
そこで必要になるのが、日頃から行う「感情のストレッチ」です。
怒りを感じたら、その場を一度離れて一周してくる。ゆっくり散歩して落ち着かせる。反対に気持ちが落ちているなら、少し速く歩いたり体を動かしたりして状態を上げる。感情を頭の中だけで処理しようとせず、体の動きから変えてみるという考え方です。
ORGANIZATION
感情を組織で可視化し、運用できるか
個人が自分の感情に気づくだけでなく、組織として状態を把握できれば、問題が表面化する前に対応できるかもしれません。
番組では、心拍数や体温などから感情の変化を可視化できないかというアイデアへ議論が進みました。怒りが爆発したあとや、気持ちが落ち込んだあとではなく、その手前で変化に気づける仕組みです。
もちろん、身体データを個人と結びつければ、個人情報の扱いが問題になります。本人の了承なく会社が感情を監視する仕組みになれば、EQを高めるどころか信頼を失います。番組でも、組織で扱うなら本人の同意が必要になることが確認されました。
その一方で、感情の状態を見ながらチームを支える役割として「最高感情責任者」というアイデアも飛び出しました。すぐに制度へ落とし込める完成案ではありません。しかし、人材の能力や業績だけでなく、感情の状態も組織運営の対象として考える。先端的なHRにとっては、検討する価値のある問いです。
SOLUTION
感情は、データではなく行動で変わる
感情を測るだけでは、感情そのものは変わりません。最後に番組がたどり着いたのは、行動によって状態を切り替えるという考え方でした。
朝に体を動かす。トランポリンに乗る。大きな声を出す。歌う。怒りが収まらないときには、カラオケで発散する。議論は社歌や決めポーズにまで広がり、スタジオには少しずつ遊び心が混ざっていきました。
一見すると、真面目な組織管理から遠ざかったように見えます。しかし、楽しい感情をデータで説明するだけでは、気分は楽しくなりません。実際に体を動かし、声を出し、誰かと笑う。その行動が感情を変える起点になります。
番組が導き出したソリューションプレイフルネスで感情の運用。
遊び心を取り入れることは、怒りや不安を軽く扱うことではありません。感情が固まる前にほぐし、別の行動を選べる状態へ戻すことです。組織が感情を排除するのではなく、動かし方を一緒に考える。その入口は、意外と楽しいものでよいのかもしれません。
CONCLUSION
感情を消さず、チームの力へ変える
EQは、感情を持たない人になるための能力ではありません。自分の状態に気づき、感情に行動を任せる前に、一度選び直すための力です。そして、相手の感情も読みながら、チームが動ける状態をつくります。
感情を押し殺すだけでは、組織の問題は見えなくなります。反対に、感情のまま動けば、判断や関係が崩れることがあります。必要なのは、その間に空間をつくることです。
そのために、散歩や運動、対話、歌といった行動を使ってもよい。毎日少しずつ「感情のストレッチ」を行えば、いざというときにも思考と感情を柔軟に動かせます。
EQを難しい管理手法として考えるだけでなく、日々の行動や遊び心から捉え直してみる。番組では、その発想が生まれるまでの議論を、出演者それぞれの経験を交えながら掘り下げています。
WATCH THE PROGRAM
「感情の運用」が生まれた議論を、番組本編で
感情体温、最高感情責任者、社歌やカラオケまで。出演者の経験と比喩から議論が広がっていく様子を、ぜひ動画でご覧ください。







